九条の大罪が教えてくれた『モモ』──「自分の時間を生きる」とはどういうことか

思考・読書

Netflixドラマ『九条の大罪』で、九条弁護士が20代の女性に手渡した3冊のうちの2冊目が、この『モモ』でした。モモを読んで、時間の大切さを改めて考えさせられました。

前回の記事で『星の王子さま』を紹介しましたが、九条がなぜこの本を選んだのか、改めて読み返してみてじんわりと理解できた気がします。

子どものころに読んだ記憶はあっても、内容はうろ覚え。大人になって読み返したら、まったく違う重さで迫ってきました。

「忙しいのに、なぜか充実していない」——そんな感覚が続いていた時期に、この本を読みました。

Netflixドラマ『九条の大罪』で、弁護士の九条が若い女性に手渡した2冊目の本が、ミヒャエル・エンデの『モモ』でした。『星の王子さま』の次にこの本、という選択に興味を持って手に取ったのですが、読み始めてすぐ「これは今の自分の話だ」と思いました。

『モモ』はどんな物語か

主人公のモモは、廃墟に住む不思議な少女。彼女の特技は「話を聞くこと」です。彼女に話を聞いてもらうと、人々は自分でも気づかなかった答えにたどり着ける。

その町に、灰色の男たちが現れます。「時間を節約しましょう」と人々に囁き、効率化を勧める。人々は言われた通りに時間を節約し始めますが、節約したはずの時間はどこかへ消えてしまう。そして人々はどんどん忙しくなり、余裕を失い、笑顔が消えていく——という物語です。

「節約した時間」はどこへ消えたのか

この物語の核心は、「効率化すればするほど、時間が消える」という逆説です。

現代のサラリーマンに置き換えると、痛いほど分かります。会議を減らして、メールをテンプレ化して、移動時間に動画を倍速で見て、昼食を10分で済ませて……。それだけ時間を「節約」しているはずなのに、なぜか一日が終わると疲弊している。何かを成し遂げた感覚がない。

灰色の男たちが奪っていたのは「時間」ではなく、「自分らしく過ごす時間」だったのだと気づきました。効率化で削られるのは、たいてい「すぐに役立たない」と判断されたもの——ぼーっとする時間、誰かとゆっくり話す時間、意味もなく散歩する時間。でも、そういう時間こそが人間らしさを保つのかもしれない。

読んで刺さった3つのシーン

1. 節約した時間は、葉巻の煙になって消える

灰色の男たちは、人間から奪った時間を葉巻として吸っています。節約されたはずの時間は、実は灰色の男たちの栄養になっていた。

これを読んで、「誰かの利益のために自分の時間を差し出しているのではないか」と思いました。残業、休日の返信、隙間時間のタスク処理——それは本当に自分のためになっているのか。

2. モモは「ただ聞く」だけで、人を救う

モモには特別なスキルも知識もありません。ただ、相手の話を全力で聞く。それだけで、話した人は自分の中に答えを見つけられる。

「聞く力」の大切さは色んな本に書かれていますが、モモの描き方は特別です。聞くことは受動的な行為ではなく、相手に「存在を認める」という積極的な行為なのだと感じました。

3.「時間とは、生きるということ、そのものだ」

本書の中で、時間の番人・マイスター・ホラが語る言葉です。時間は命そのもの。誰かに奪わせてはいけない、と。

読んだ瞬間、「自分は自分の時間を生きているか?」と問われた気がしました。他人の期待、会社の都合、SNSの通知——それらに引っ張られて、自分の意志で時間を使えていない瞬間がいかに多いか。

九条がこの本を選んだ理由

ドラマの中で、九条は「あなたは自分の時間を生きているか」という問いを、この本を通じて投げかけたのだと思います。

他者の都合に巻き込まれて罪を犯してしまった女性に対して、「あなたの時間はあなたのものだ」というメッセージを送りたかったのではないか。法律の言葉ではなく、物語の力を借りて。

読んで変えた習慣

この本を読んでから、一つだけ意識的に変えたことがあります。

平日の夜、30分だけ「何もしない時間」を作るようにしました。スマホも本も置いて、ただぼーっとする。最初は落ち着かなかったのですが、慣れてくると「ここが自分の時間だ」という感覚が生まれてきました。

効率ゼロの時間に見えますが、翌日の仕事への集中力が上がった気がします。灰色の男たちに奪われない時間を、意識的に守ること。それが今の自分にとっての「モモを読んだ成果」です。

今日からできるアクション

  • 1日1回、意図的に「何もしない時間」を5分だけ作ってみる
  • 「忙しい」を言い訳にしていないか振り返る
  • 誰かの話を聞くとき、スマホを伏せてみる

1973年に書かれた本ですが、読むたびに「今の時代のことを書いているのでは」と感じます。効率と生産性に疲れたとき、ぜひ手に取ってみてください。

『モモ』ってどんな本?

「時間泥棒」に奪われた人々の時間を取り戻すために、不思議な少女モモが立ち向かう物語です。

灰色の男たちは、人々に近づいてこう囁きます。「時間を節約しなさい。効率よく生きなさい」と。その言葉を聞いた人々は、だんだんと忙しくなっていく。友人と過ごす時間、子どもと話す時間、ぼんやり空を眺める時間……そういうものが「無駄」に感じられ、少しずつ削られていく。

でも奪われた時間は、灰色の男たちが吸う葉巻の煙になって消えていく。人々は忙しく動き続けているのに、なぜか豊かさを感じられない。

ミヒャエル・エンデがこの物語を書いたのは1973年。半世紀以上前の話なのに、読んでいて「これ、今の自分のことだ」と思う場面が何度もありました。

九条弁護士がこの本を贈った理由(考察)

九条弁護士がこの本を選んだ理由を考えたとき、ひとつの文脈が浮かびました。

刑務所、とりわけ禁錮という刑罰は、「社会的な時間を奪われる」場所です。自由に動ける時間、自分で選択できる時間が制限される。将来を悩む彼女に対して九条は、「時間を奪われることの意味」を問いかけたかったのかもしれません。

そして同時に、もうひとつの問いかけもあると思います。

「あなたは今、本当に自分の時間を生きていますか?」

忙しさを理由に、大事なものを後回しにし続けている現代社会。灰色の男たちに時間を奪われている人々の姿は、目に見えるお金や損得だけで動いていた彼女自身と重なるのではないか。

「自分の時間を取り戻す」とは、すなわち「自分自身を生きる」ことだ、と。

大人になってから刺さった3つの場面

①「節約した時間」がどこへ消えたのか、誰も知らない

灰色の男たちに言われた通り、人々は時間を節約します。でも節約したはずの時間は、自分の手元に残らない。気づいたら「忙しいのに豊かじゃない」という状態になっている。

サラリーマンとして働いていると、この感覚が妙にリアルです。効率化ツールを使い、無駄を省き、予定を詰め込む。それなのに「あの頃より充実していたか」と問われると、答えに詰まる。

②モモの「聴く」という力

モモには特別な能力があります。ただ、じっと話を聴くこと。それだけ。

でもモモに話を聴いてもらった人は、気づいたら自分で答えを見つけている。励ますわけでも、アドバイスするわけでもない。ただ、静かに聴く。

ミニマリスト的な視点で言えば、これは「引き算の力」です。余計なものを加えず、ただそこにいる。それが人を助けることがある、という描写に、読んでいてハッとさせられました。

③「時間とは、生きることそのものだ」

物語の中でホラ博士がモモにこう語りかけます。「時間とは、生きることそのものだ」と。

時間を節約することは、命を節約することと同じかもしれない。いや、命を削ることと同じかもしれない。読んでいて、ぞっとするような、でも深く納得するような感覚がありました。

今日からできるアクション

  1. 「意味のある無駄」を1つ残す
    今日のスケジュールから、効率とは関係のない時間を意識的に1つ残してみてください。友人と話す、散歩する、ただ空を見る。それが「自分の時間」を守る最初の一歩です。
  2. 「忙しい」が口癖になっていないか確認する
    灰色の男たちは「忙しくすること」で時間を奪います。「忙しいから」が言い訳になっているとき、本当に奪われているのは何かを考えてみる。
  3. 誰かの話を、ただ聴いてみる
    モモのように、アドバイスしようとせず、ただ黙って聴く。それだけで、相手にとっても自分にとっても大きな時間になることがあります。

まとめ

『モモ』は、半世紀以上前に書かれたにもかかわらず、今この時代に読むと「これは今の話だ」と感じる恐ろしいほど普遍的な物語です。

九条の大罪を通じてこの本に出会い直したことで、「自分は今、本当に自分の時間を生きているか」という問いを持てるようになりました。

忙しさの中で何かを見失いそうになっている人、時間を節約しているのに豊かさを感じられない人に、静かに手渡したい一冊です。

モモ

ミヒャエル・エンデ(訳:大島かおり)

コメント

タイトルとURLをコピーしました