トラブル対応をしていると、関わるすべての人に「満足してもらいたい」と思うことってありませんか。
Aさんの言い分も分かる。でもBさんの立場もある。どちらも大切にしたい。そう思うほど、自分の中で何かがすり減っていく感覚がありました。「私は内向的だから、こういう場面で疲れやすいんだ」とは思いつつも、それがなぜなのか、どうすればよいのかが、なかなかわからないままでした。
私がこの本に出会ったのは、そんなふうに消耗しきっていた頃のことでした。以前お世話になった職場の上司に「これ、読んでみて」と手渡されたのが、稲垣諭さんの『やさしいがつづかない』です。
読み始めて、最初の数ページで気づきました。「あ、私がずっと無理していたのは、こういうことだったのか」と。
『やさしいがつづかない』とはどんな本か
著者の稲垣諭さんは哲学者です。この本は「やさしさ」という、日常的でありながら実は深い問いを哲学的に掘り下げた一冊です。
「なぜ人はやさしくしたいと思うのに、それが続かないのか」——そのシンプルな問いに、稲垣さんは正直に、丁寧に向き合っています。難しい哲学用語が並ぶ本ではなく、「自分のこと、書かれてる」と感じながら読めるのが特徴です。出版社はサンマーク出版。Amazonでも4.4という高評価を得ています。
一言で言うなら、「やさしくしようとするほど疲れてしまう理由」と「それでもやさしさを大切にするための考え方」を教えてくれる本です。
読んで気づいたこと・刺さったポイント
①「全員に満足してもらおうとすること」自体が無理だった
仕事でトラブル対応をしていると、当事者それぞれの「正しさ」が存在します。Aさんから見れば明らかにAさんが正しい。Bさんから見ればBさんが正しい。そのどちらにも寄り添おうとすると、自分の中で矛盾が起き始めます。
私はずっと「どちらにも満足してもらえれば、きっとうまく解決できる」と信じていました。でもこの本を読んで気づいたのは、「全方向に満足してもらおうとするやさしさは、本物のやさしさではなく、承認欲求からくる行動かもしれない」ということです。
やさしくしたかったのではなく、「やさしい自分でいたかった」のかもしれない——そう気づいたとき、なんとも言えない、でもすっきりとした感覚がありました。
②内向的な人が「やさしさ」で消耗しやすい理由
内向的な人は、他人の感情に敏感です。「あの人、今不満そうだな」「この返答では納得してもらえていないな」という空気をすぐに読み取ってしまいます。
その感受性は、本来は強みのはずです。でも、その感受性を「相手の期待に応え続けること」に使ってしまうと、一気にエネルギーを消耗します。自分の感情は後回しにして、相手の感情の調整役を買って出てしまう。
この本には、やさしさと自己犠牲の違いについて丁寧な考察があります。「やさしさとは、相手のために自分を消すことではない」というメッセージは、内向的で相手の気持ちを優先しがちな私には、深く刺さりました。
③「やさしさが続かない」のは、意志が弱いからじゃない
「もっと心が広ければ、もっとやさしくできるのに」と思うことがありました。やさしさが続かないのは、自分の器が小さいからだ、と。
でもこの本はそうではないと教えてくれます。やさしさが続かないのは、「やさしさの向け方」が間違っているからかもしれない、と。自分を消耗させるやさしさは、構造的に続かない。それは意志の問題ではなく、やり方の問題なのです。
「やさしさって、消耗するものじゃなくてもいいんだ」という気づきは、当時の私にとってかなり大きなものでした。
今日からできるアクション
この本を読んで、私が実際に意識するようにしたことをご紹介します。
- 「誰に何をしてあげたいのか」を一度明確にする
トラブル対応で消耗するとき、自分が誰のために動いているかが曖昧になっていることがあります。「全員に満足してもらおう」ではなく、「この人のためにできることはこれだ」と絞ることで、行動にメリハリが生まれます。 - 「やさしさ」と「承認欲求」を区別してみる
自分がやさしくしようとしているとき、それは相手のためか、それとも「良く思われたい」という自分のためか——この問いを持つだけで、行動の質が変わります。 - 疲れを感じたら「自分を後回しにしていないか」を振り返る
内向的な人は、気づかないうちに自分の感情を後回しにしがちです。日々の終わりに、「今日の自分の気持ちはどうだったか」を少し振り返る習慣をつけるだけで変わることがあります。
まとめ・感想
この本を読む前の私は、「どこかで無理をしているのはわかっている。でもそれがどんな無理なのか、どうしたら変えられるのか、わからない」という状態でした。
読んでからは、自分の中の「やさしさへの誤解」に気づくことができました。やさしくすることと、自分を消耗させることは、同じではない。その認識が変わるだけで、仕事への向き合い方が少し楽になったように感じています。
こんな方に、特におすすめしたい一冊です。
- 内向的で、他人の感情に敏感すぎると感じている方
- トラブル対応や調整業務で、誰にも満足してもらえない感覚を持っている方
- 「もっとやさしくできれば」と自分を責めてしまいがちな方
哲学書と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、稲垣さんの文章は読みやすく、気づけば「そうそう、まさにこういうこと!」とうなずきながら読んでいます。仕事で消耗していると感じているなら、ぜひ手に取ってみてください。


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