「危険を経験しないと新しいことに挑めない」|ディーン・ポッターのドキュメンタリーと25歳のワーホリ

ディーン・ポッターを思わせる、夜明け前の岩壁とハイラインを渡る人影の水彩イラスト 思考・読書

ディーン・ポッターという人を知っていますか。新しいことを始めたいのに動き出せない。そんな夜に観たドキュメンタリーの話です。

先日、U-NEXTでディーン・ポッターのドキュメンタリーを観ました。『ザ・ダーク・ウィザード』という全4話の作品です。観終わったあと、しばらく動けませんでした。

世の中には、こんな人がいるのか。まずそう思いました。そのうえで、ひとつの言葉が胸に残りました。

「危険なことを経験しないと、新しいことには挑めない」。

これは字幕そのままの引用ではありません。作品を観て私が受け取った意味を、自分の言葉にしたものです。ただ、この一文が頭から離れませんでした。

今日は、その言葉と、私が25歳のときに過ごした1年について書きます。

ディーン・ポッターとは何者だったのか

ディーン・ポッターは、1972年生まれのアメリカ人です。ロッククライマーであり、ベースジャンパーでもありました。エクストリームスポーツの世界では、伝説の人として知られています。

やっていたことは、聞くだけで足がすくみます。たとえば「フリーソロ」です。命綱をいっさい使わずに、切り立った岩壁を登ります。ヨセミテ国立公園の巨大な岩も、その対象でした。

さらに「ハイライン」もあります。数百メートルの高さに張った細いロープの上を、命綱なしで渡る行為です。もちろん、落ちれば助かりません。

そのうえ、彼は「フリーベース」という新しいやり方まで考えました。命綱なしで登りながら、背中にはパラシュートだけを背負います。つまり、落ちたら空を飛んで助かる、という発想です。

そして2015年5月16日、ヨセミテのタフトポイントから飛び立ったジャンプで事故に遭いました。43歳でした。

ディーン・ポッターを描いた『ザ・ダーク・ウィザード』はどんな作品か

作品はHBO制作の全4話です。監督はピーター・モーティマー。日本ではU-NEXTで独占配信されています。

各話のタイトルを並べると、彼の人生の流れが見えてきます。

  • 第1話「死の淵」:若き日のディーンと、仲間との出会い
  • 第2話「死(ダイ)から飛行(フライ)へ」:大きな事故と、それでも飛ぶ選択
  • 第3話「これはアートだ」:アレックス・オノルドとのライバル関係
  • 第4話「人間の限界を超える」:家族との穏やかな日々と、消えない情熱

印象的なのは、彼が幼い頃に「空から転落する夢」を繰り返し見ていたという話です。つまり、彼は恐怖から逃げたのではありません。むしろ、恐怖のほうへ自分から歩いていった人でした。

なお、この作品は2026年9月30日23:59までの配信です。気になる方は早めにどうぞ。

ザ・ダーク・ウィザード(U-NEXT作品ページ)

ディーン・ポッターの言葉をどう受け取ったか

最初にこの言葉を受け取ったとき、正直こわいと思いました。危険をすすめる話に聞こえたからです。

しかし、観終わってから考えが変わりました。これは「無茶をしろ」という話ではありません。むしろ「恐怖を知らないうちは、その先の景色は見えない」という話だと思うのです。

ディーンは、落ちる恐怖を誰よりも知っていました。だからこそ、そこから先へ進む方法を考え続けられたのでしょう。恐怖を知らない人には、そもそも越えるべき線が見えません。

要するに、順番が逆なのです。安全を確かめてから挑むのではありません。いったん怖い側に立ってみて、はじめて「ここまでは大丈夫だ」が分かります。

私にとっての危険は、25歳のワーキングホリデーだった

ここで、自分の話をさせてください。私は25歳のとき、オーストラリアへワーキングホリデーに行きました。期間は1年です。

そのあいだ、日本での会社員の仕事はお休みしました。当時の私にとって、これは十分に「危険なこと」でした。

いま思えば、心配は山ほどありました。1年も職場を離れて、戻る場所はあるのか。同期には置いていかれるのではないか。英語も大してできないのに、向こうで生活できるのか。

もちろん、崖から飛ぶような危険ではありません。ただ、当時の私の感覚では、足元がなくなるような選択でした。

それでも行きました。理由は単純です。ここで行かなければ、たぶん一生行かないと思ったからです。

1年の「空白」が、いまの柱になっている

結果として、あの1年は空白にはなりませんでした。むしろ、いちばん太い柱になっています。

まず、英語を使う仕事につながりました。教科書の英語ではなく、生活の中で使った英語です。だから、多少うまくいかなくても平気になりました。

さらに、外国語のコンテンツを楽しめるようになりました。いまの私は韓国旅の動画を撮っていますし、ハングルの看板を読む記事も書いています。あの1年がなければ、外国語に手を伸ばす発想すら持てなかったはずです。

つまり、あのとき取った小さな危険が、10年以上あとの楽しみを作ってくれました。ディーン・ポッターの言葉に感じ入ったのは、たぶんこの実感があったからです。

会社員のままできる「小さな危険」の取り方

とはいえ、誰もが仕事を1年休めるわけではありません。そこで、いまの私が意識していることを3つ書きます。

1. 手を挙げてから、やり方を考える

準備が整ってから動こうとすると、たいてい動けません。そのため、先に手を挙げるようにしています。やり方はあとから調べれば間に合うことが多いからです。

2. 期限を先に外へ出す

宣言しないと、人はいくらでも先延ばしします。だから私は、締め切りを人に言うか、ブログに書いてしまいます。少し怖いのですが、その怖さがちょうどよく効きます。

3. 身軽にしておく

これはミニマリスト的な話です。モノが少ないほど、動くときの負担が減ります。実際、荷物が多い人ほど「引っ越し」も「転職」も重く感じます。つまり、身軽さは挑戦のための準備です。

ただし、命を賭ける必要はありません

ここは、はっきり書いておきます。ディーンは事故で亡くなりました。ご家族も、仲間もいました。作品を観れば、その重さも伝わってきます。

ですから、彼のやり方をそのまま真似する必要はありません。私たちが受け取るべきなのは、行為そのものではなく、恐怖との向き合い方だと思います。

取り返しのつく範囲で、少しだけ怖い側に立つ。それで十分です。

もっと深く知りたい人へ:沢木耕太郎『凍』

この感覚をもう少し味わいたい方に、1冊だけ紹介します。沢木耕太郎さんの『凍』です。

登山家の山野井泰史さん夫妻が、ヒマラヤのギャチュンカンから生きて帰るまでを描いた実話です。二人は極限の状況で、指を失いながら下山します。

読むと分かるのですが、彼らは無謀ではありません。むしろ、危険を細かく数えられる人たちです。だからこそ、引き返す判断もできました。

ディーン・ポッターの作品と並べて触れると、「挑む」と「無謀」の違いが見えてきます。

今日からできる3つのこと

  1. 『ザ・ダーク・ウィザード』を第1話だけ観る。全4話で約4時間ですが、まずは1話で十分です。なお、配信は9月30日までです。
  2. いま怖いと感じていることを、紙に1行だけ書く。書くと、危険の大きさが実物より小さいと分かります。
  3. その1行を、誰か1人に言ってみる。宣言した時点で、もう半分は動き出しています。

まとめ

ディーン・ポッターの生き方は、真似できるものではありません。それでも、彼が示した順番は借りられます。

安全を確かめてから動くのではなく、少し怖い側に立ってみる。そこから見える景色が、次の柱になります。

私の場合は、25歳の1年がそれでした。あのとき怖がって行かなかったら、いまの仕事も、韓国旅の楽しみもなかったはずです。

あなたにとっての「小さな危険」は、何でしょうか。

参考にした資料

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